恐怖の解剖実習2020

さて秋以降怒涛の展開と申しました原因の99割は、タイトルにある解剖実習にあります。

夏休みは9月の初週で終わり、すぐ解剖実習の前段階としての座学が1週間ほど行われます。ここで骨の名前・骨の部位の名前(くぼみとか穴とか切痕とか膨らみとか)を英語で覚えます。今は完全に忘れました。

 

終わったらいよいよ解剖実習です。世間は新型コロナウイルスでてんやわんやですが、解剖実習室は常時換気されており、普通に実習をするだけならマスクと体温報告と入室時の手指消毒をしていれば、たとえ医学生が100人以上詰め込まれようと大丈夫だろう、ということで行われました。結果大丈夫でよかったです。

弊学での解剖実習は三か月近くにわたり行われますが、前半と後半で2人の方を解剖させていただきます。

私は前半で上半身・後半で下半身を解剖しました。解剖班は4人で、対側同士の2人が同じ部位を担当します。

上半身は首から上と腕・手、下半身はそれ以外全部で、上半身は脳神経・感覚器・腋窩、下半身は臓器と筋肉がメインです(多分)。脳は脳解剖で別にやります。

解剖で学んだことをまとめると「全然教科書どおりじゃなくてよくわかりませんでした」といったところになりますが怒られそうですね……。でも本当に手引書の半分もよくわからなかったんですよね、もう一回やれと言われたら少しはわかるのかなあ。

学んだこと以上に大変だった記憶が鮮明に残っているのでほとんど以下のように愚痴になりそうです。

 

解剖実習は想像以上の過酷をきわめました(当社基準)。

過酷と思った点は以下3点です。

・とにかく時間がない

・スケッチができない

・休みがなく体力的にきつい

 

順番に見ていきましょう。

・時間がない

まず最初のうちは慣れないのでスケジュールにかなりの遅れが出ました。一番遅れたときで1週間半分くらい遅れたんじゃないでしょうか。

例年でもやはり時間が足りないようで、「時間外労働」という名の居残りを申請して自主的に解剖を行うことが許されていたようですが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため許されていませんでした。

全体的に遅れが修正されないまま1か月ほど過ぎ、結局前半の最後の方で解禁されました。この日からできるだけ居残っていたのですが、まあ遅れが大きすぎて終わりませんでした。やっているのに間に合わないストレスというのは相当なもので、おそらく(まじめな)多くの医学生は同じことを思ったんじゃないでしょうか。

 

また、スケジュールの遅れを後押ししたものに手引書のわかりづらさがあります。初版が出たのが1962年だそうですが、それを感じさせない素晴らしい名著……というわけではなく、そもそも日本語の文章として分かりづらいです。挿絵も豊富というわけではなく、手引書なのに図もわかりにくいです。何をしていいのかよくわからず飛ばすという手段をしばしばとらざるを得なくなりました。

このよくわからんところを飛ばすという手をとるのに多大なストレスを感じる人もいて、手引書の「読解」にめちゃくちゃ時間がかかっている人がいたので(私も「ここ飛ばしたらあと全部わからなくならないかな」という恐怖は多少ありました。積み残したノルマを考えると立ち止まっていられなかったので最終的にガンガン飛ばしましたが)、これが全体の遅れの原因のひとつなのではないかと思っています。

 

・スケッチができない

これは半分私の能力不足です。解剖したところをスケッチとして記録を残しておきなさい、というのが課題だったのですが、先述した通りスケジュールの遅れが激しく、それを取り戻すのに一日かけてメスを握っていると、記録どころではなくなってしまいました。

サクサクとみたものを絵に描ける人間だったらよかったのですが、私にそんな能力はなく、かなりの苦痛を味わいながら見たものを描いては消し、描いては消しをやるか、教科書を写しとらざるをえなくなりました。上半身をやっていた前半では言うに及ばず、後半の下半身でもスケッチをする時間はあまりありませんでした。

最終的にすべての観察事項についてスケッチが求められるため、結局アトラスとVisible Body(解剖学アプリ)を見て勉強させていただきました。

 

・休みがなく体力的にきつい

解剖実習は朝から夕方までフルにつかって行われます。6時間×2~3日間(週の他の時間は生化学や分子医化学など他の科目があります)×十数週間続くので、ほとんど体力勝負となります。時間中ほぼ立ちっぱなしですので、まず腰がいかれます。土日休みはありますが、回復はままなりません。また、時間外解剖を行っているときは土日にも出ていました。

慣れない最初のうちはピンセットの握り方がよくなく、親指の腱鞘炎を発症し、毎日粘着性の強い湿布を貼って解剖していました。

先日確定申告のためセルフメディケーション適用のレシートを並べていたのですが、額として大半はこの湿布とエアサ〇ンパスに使っていました。

 

以上です。こんな感じで年末まで続いたものですから、まったくブログどころではありませんでした(言い訳)。終わった当時は解放感と達成感がありましたが、振り返りをするとやっぱりきつかったんだわ。

もしこれを見ていて解剖をこれからする予定のひとがいたら、「力を抜いて頑張りましょう」と声を掛けたいですね。ずっと100%の力でやると疲れるし、馬鹿を見ます。解剖だけじゃなくて医学部の勉強全般に言えることかもしれません。