【書評】世にも危険な医療の世界史

今日は先日ようやく読了した書籍の話をしましょう。

医学史を履修していて興味がわいたので、Amazonで高評価だったものを昨年末に買っていたのですが、なかなか読むのに時間がかかってしまいました。

感想を結論から言うと「娯楽として読む価値ある」という感じです。

 

 人類が病を治すため、あるいは美容や健康を保つため、時に不老不死を求めて歴史上行ってきた「医療」について、軽妙な筆致で書かれています。

前書きに「これはトンデモ・インチキ治療法の百科事典ではない」と書かれているのですが、ほとんど百科事典並だろうと思えるほどそれらについての記述が詰まっています。筆者の一人が司書とはいえよくこれだけ集まったものだと思います。

読むのに時間がかかった、と言ったのは読む量の多さもあるのですが、「読んでいて頭がおかしくなりそうだから」というのが一番大きかったです。”体内周波数を正常にする”と謳った「ラジオニクス」を紹介した章から一部引用しましょう。

 

「人間の体は原子でできている。そして原子は電子でできている。電子が振動すると放射線が発生するが、ラジオニクスの専門医はこれを『エイブラムスの電子反応』、略して『ERA』と呼んだ。健康な人であれば、電子は『通常』のペースで振動する。だが病気にかかると、その人の電子は『異常』なペースで振動する。そのため患者を治すために、内科医は不健康な振動を検知し、装置を使って病んだ電子が生み出す周波数と同じ周波数を病原に向かって放射する。こうすることで病気は中和され、電子の振動も通常に戻る、という仕組みだ。」(p386)

 

何を言っているか(ry)原子って電子で出来てましたっけ??当時は原子が発見されて間もないのでこういう詐欺が働けるわけです。いやあいい時代ですね。このラジオニクスを提唱した最初の人は死ぬ前にこれでめちゃくちゃ儲けて死んだらしいです。ドラマのTrickみたいですね。

「危険な医療」の説明はこのほか水銀、アヘン、コカイン、アルコール、タバコ、浣腸、焼灼、瀉血、食人、ロボトミー……などなど28章に渡ってたっぷり説明されていますが、読んでいるとめまいがしてきます。先ほどの引用したようなノリで28章分あるわけですから、面白いと思いつつ一気に読み通すのは私には無理でした。しかし医学史に興味がある方には、一読の価値はあると思いますし、読後謎の充実感を味わえると思います。

 

この本の中に書かれている医療については、現代を生きる我々の医療に関する常識からすればありえないようなものが多くあります。先人たちの体当たり的な検証と犠牲になった哀れな人々に感謝するよりほかにないですね。

この本には詐欺行為を働いて一儲けしようと企んだ悪者も数多く出てきますが、基本的に医師は患者を治すために、試行錯誤を繰り返した結果(今となっては危険すぎると思われる)医療を行っていたわけですから、これをただ批判するのは現代人のポジショントークと言えるでしょう。

「医学の歴史は人体実験の歴史」とよく言いますがこの本でそれがよくわかると思います。また、人の不安につけこんで儲けを企む詐欺師の存在が古今東西脈々と続いていることも。

 

一点気になるのは、これ文献リストがついてないことなんですよね。画像クレジットはついてるんですが。なので「これほんとかよ」と思うような記述のソースにアクセスできません。原著ならついてるのかな、もしそうなら削除しないでほしいな、などと思いつつ。もし原著にもないのだったら笑ってしまいますが。

 

以下、目次です。興味が湧いたらどうぞ。(Amazonより)

■第一部 元素

第1章 水銀――始皇帝に愛された秘薬
第2章 アンチモン――嘔吐で強制デトックス
第3章 ヒ素――パンにつけて召し上がれ
第4章 金――輝かしい性病治療
第5章 ラジウムラドン――健康〝被曝〟飲料ブーム
トンデモ医療1 女性の健康編

■第二部 植物と土

第6章 アヘン――子どもの夜泣きはこれで解決
第7章 ストリキニーネ――ヒトラーの常備薬
第8章 タバコ――吸ってはならない浣腸パイプ
第9章 コカイン――欧州を席巻したエナジードリンク
第10章 アルコール――妊婦の静脈にブランデーを注射
第11章 土――死刑囚が挑んだ土食実験
トンデモ医療2 解毒剤編

■第三部 器具

第12章 瀉血――モーツァルトは2リットル抜かれた
第13章 ロボトミー――史上最悪のノーベル賞
第14章 焼灼法――皮膚を強火であぶる医師
第15章 浣腸――エジプト王に仕えた「肛門の守り人」
第16章 水治療法――それは拷問か、矯正か
第17章 外科手術――1度の手術で3人殺した名医
第18章 麻酔――一か八か吸ってみた
トンデモ医療3 男性の健康編

■第四部 動物

第19章 ヒル――300本の歯で臓器をガブリ
第20章 食人――剣闘士の生レバー
第21章 動物の身体――ヤギの睾丸を移植した男たち
第22章 セックス――18キロの医療用バイブレータ
第23章 断食――飢餓ハイツへようこそ
トンデモ医療4 ダイエット編

■第五部 神秘的な力

第24章 電気――内臓を刺激する感電風呂
第25章 動物磁気――詐欺医師が放ったハンドパワー
第26章 光――光線セラピーで何が起きるか?
第27章 ラジオニクス――個人情報ダダ漏れの〝体内周波数〟
第28章 ローヤルタッチ――ルイ9世の白骨化した腕
トンデモ医療5 目の健康編
トンデモ医療6 がん治療編